こたつで本が読める本屋さん――書店の枠を飛び越えた天狼院書店に行ってきた

こたつに入ってまったりと本を読む。そんな至福の時が過ごせる本屋さんがありました。

» 2013年12月24日 10時00分 公開
[姫野ケイ,ねとらぼ]

 いよいよ冬本番。こたつでみかんというのは、日本人らしい冬の過ごし方と言えるだろう。そんな、日本人が愛してやまないこたつが置かれている本屋さんがある。池袋にある「天狼院書店」(東京都豊島区南池袋)だ。

 天狼院書店は池袋ジュンク堂書店のすぐ横の通り、「東通り」という細い道の先にある。建物の1階はそば屋。池袋東口の大通りと比べると人通りも少ないので、分かりづらい方もいるかもしれないが、東通りをひたすらまっすぐ歩いていたら着くのでご安心を。

そば屋の2階が天狼院書店

オシャレな家具の中にこたつが

 店内は書店というには少しコンパクトな空間で、圧迫感を感じない程度に本が並べられている。至る所にアンティーク調のオシャレないすやテーブルが置かれていて落ち着いた空間だ。お客さんはいすやテーブルで本を読める。カフェメニューもあり、ドリンクを飲みながらくつろぎつつの読書も可能だ。中でもコーヒーがおいしいと評判だという。

店内にはオシャレな家具
コーヒーは、ひきたて豆を使用。注文すると運んできてくれる。ドリンクを頼めば、電源とWi-Fiが無料で使えるので仕事をする人も。フードメニューはラピエスモンテナの焼き菓子。ソフトドリンクはすべて350円で、午後6時からはアルコールも提供

 オシャレ家具の中にうわさのこたつを発見! こたつに入って店員の榮田佳織さんに話を聞いた。

 こたつの設置は店主の三浦崇典さんの突然の思いつき。当初はオブジェとして置くつもりだったが、お客さんが使うようになり、こたつから出られなくなる人が続出中とのこと。筆者も、取材後こたつに入って本を読んだまま1時間くらい出られなかった。

こたつは人気席。みんなこたつの魔力から逃れられなくなる!?

 こたつだけではなく、同書店ではほかにはあまり見られない取り組みが見られる。

お客さんがおすすめを置ける本棚

 天狼院書店の本棚は「黒船来航」「天狼院BASIC」「天狼院マスターズ」「天狼院BOX」の4つに分かれている。黒船来航は旬の本がそろっており、最近では古事記のコーナーが人気だという。天狼院BASICは基礎を養うための棚として、岩波文庫の小説を並べている。天狼院マスターズは、専門家が厳選した専門書や教本、資格本を置いている。天狼院が特に力を入れているのがこのマスターズだ。

「黒船来航」と称されるメインステージ本棚。今旬の本がレパートリー広く置かれている

 大きな書店ではたくさんの専門書が並び、どれを買うか悩んでしまう。本によっては表紙のデザインやプロモーションの仕方だけで売れて、実は中身は使えないという本もあるそうだ。天狼院マスターズではそのカテゴリのプロが厳選した本だけを置いている。例えば、TOEICの教本は東京外語大卒の専門家が選んでいる。本を選んだ専門家による勉強会も店内で開いている。

 もう1つ特徴的なのが「天狼院BOX」。これはお客さんが自分のおすすめを置けるコーナーだ。天狼院での本の購入上位者が、1人につき1棚(全部で44個ある)、自分の本棚として好きな本を置ける権利(選書権)を1カ月間もらえる。自分が好きな本を多くの人に広められるというわけだ。

こたつの後ろに備え付けられている天狼院BOX。それぞれの棚から選んだ人の個性があふれており、偶然目にした本と巡り会える

読書会に部活、イベントも盛りだくさん

 店内でのイベントも盛んで、週4回以上開催している。毎週日曜日の朝9時から行っているのが「ファナティック読書会」。自分の好きな本について熱狂的(ファナティック)に話す会だ。参加費は500円で、コーヒーとお菓子付き。毎回10人以上が集まり、ついつい話が終わらずに長引いてしまうこともあるのだとか。「みなさん、熱狂的に好きな小説や漫画について語ってくれますよ」と三浦さん。本は好きだけれど、語れる場所があまりないという人にとって、最高のコミュニケーションの場になっているという。

 読書会のほかにも、作家や編集者が1日店長をしたり、トークを行うイベントもある。日曜日は1日で4回もイベントがあることも。大きな書店でのイベントでは作家さんと話すことは難しいが、天狼院ならば間近で会話もできる。イベントは依頼することもあるが、「イベントをやりたい」と申し出る方も多いそうだ。次は天狼院文化祭も考えているとか。

 珍しいのは書店なのに部活があるということ。現在活動しているのは天狼院フォト部。カメラ好きのお客さんと店員さんが集まり、プロのカメラマンに教えてもらいながら活動している。手品同好会も発足している。部員が集まって、三浦さんが面白いと思ったものは同好会から部活へ昇格する。

SNSで情報発信、Web番組も

 同店を訪れるお客さんのほとんどは、Web上で天狼院書店を知った人だという。FacebookやTwitterなど、Webでの情報発信を積極的に行っており、Facebookでチェックインするとコーヒーチケットがもらえるサービスも提供している。毎週木曜日午後8時〜午後9時はUstreamで「天狼TV」を放送、出版社の人などをゲストに呼んで和気あいあいと放送している。開店資金の一部をクラウドファンディングで調達するなど、オープン前からネット活用には積極的だった。

ネット通販にはない、人とのつながり

 書店という枠から飛び出した天狼院書店。「本を売るだけでなく、その先のライフスタイルを提供する、『リーディングライフの提供』が天狼院のスローガンです」と三浦さんは言う。お客さん同士のコミュニケーションの場を作るため、新規来店のお客さんには必ず店員が声をかけているという。お客さんの声も多く取り入れ、日々進化していっているとのこと。

 現在ネット通販に押されて町の書店がピンチだという話は聞くが、ネット通販と天狼院ではそもそも業態が違うと榮田さんは語る。「ネット販売は買う本が決まっている人が利用するツールです。一方、天狼院はこんな本が欲しい、こんな悩みにはどの本がいいのかなどが相談でき、探している本以外の話もできる場所です」

 ネット通販では、店員さんに相談したり、ほかのお客さんとのコミュニケーションをとることもない。天狼院書店は、本を買うことから派生する、さまざまなつながりを生み出してくれる場所のようだ。今後は全国に10店鋪ほど広げていくことが目標と話す。

 こたつが設置されているのは今の季節だけ! こたつで読書するもよし、おいしいコーヒーを味わうもよし、イベントや部活に参加するもよし。一度足を運んでみると、新たな本や人と出会えるかもしれない。

姫野ケイ:フリーライター・コラムニスト・作家。1987年9月7日生まれ。宮崎県宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社のアルバイトにて編集業務を学びつつ、ヴィジュアル系バンドの追っかけに明け暮れるバンギャル。2010年度南日本文学大賞最終ファイナリスト。現在はWebやスポーツ新聞にてコラム・小説を執筆中。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

先週の総合アクセスTOP10
  1. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  2. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  3. 安達祐実、成人した娘とのレアな2ショット披露 「ママには見えない!」「とても似ててびっくり」と驚きの声
  4. 兄が10歳下の妹に無償の愛を注ぎ続けて2年後…… ママも驚きの光景に「尊すぎてコメントが浮かばねぇ」「最高のにいに」
  5. “これが普通だと思っていた柴犬のお風呂の入れ方が特殊すぎた” 予想外の体勢に「今まで観てきた入浴法で1番かわいい」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評
  8. お花見でも大活躍する「2杯のドリンクを片手で持つ方法」 目からウロコの裏技に「えぇーーすごーーい」「やってみます!」
  9. 弟から出産祝いをもらったら…… 爆笑の悲劇に「めっちゃおもろ可愛いんだけどw」「笑いこらえるの無理でした」
  10. 3カ月の赤ちゃん、パパに“しーっ”とされた反応が「可愛いぁぁぁぁ」と200万再生 無邪気なお返事としぐさから幸せがあふれ出す
先月の総合アクセスTOP10
  1. フワちゃん、弟の結婚式で卑劣な行為に「席次見て名前覚えたからな」 めでたい場でのひんしゅく行為に「プライベート守ろうよ!」の声
  2. 親が「絶対たぬき」「賭けてもいい」と言い張る動物を、保護して育ててみた結果…… 驚愕の正体が230万表示「こんなん噴くわ!」
  3. 水道検針員から直筆の手紙、驚き確認すると…… メーターボックスで起きた珍事が300万再生「これはびっくり」「生命の逞しさ」
  4. フワちゃん、収録中に見えてはいけない“部位”が映る まさかの露出に「拡大しちゃったじゃん」「またか」の声
  5. スーパーで売れ残っていた半額のカニを水槽に入れてみたら…… 220万再生された涙の結末に「切なくなった」「凄く感動」
  6. 桐朋高等学校、78期卒業生の答辞に賛辞やまず 「只者ではない」「感動のあまり泣いて10回読み直した」
  7. 「これは悲劇」 ヤマザキ“春のパンまつり”シールを集めていたはずなのに…… 途中で気づいたまさかの現実
  8. 「ふざけんな」 宿泊施設に「キャンセル料金を払わなくする方法」が物議 宿泊施設「大目に見てきたが厳格化する」
  9. がん闘病中の見栄晴、20回以上の放射線治療を受け変化が…… 「痛がゆくなって来ました」
  10. 食べ終わったパイナップルの葉を土に植えたら…… 3年半後、目を疑う結果に「もう、ただただ感動です」「ちょっと泣きそう」